伏せ札


「シロウ〜、来たよ〜!」

 朝、衛宮邸。
 玄関を開けるとシロウのとは別に靴二足。
 桜とタイガーが先に来てるみたい。

『ちと今手が離せないから勝手に上がってきてくれー』
「うん」

 スリッパを履いてパタパタと居間へ向かう。
 居間の障子を開けた瞬間、突き刺さる数多の視線。

「うふふ〜、おはようイリヤちゃん」
「おはようございます、イリヤちゃん」
「今朝は遅かったなーイリヤ」
「………………」

 ……なんだろう。敵意とも違うし……これは好奇かしら。

「……ちょっと夢見が悪くて寝過ごしただけ。心配には及ばないわ」
「大丈夫ですか?ご飯とかどうします?」
「いつも通りでいいわ。ありがとうサクラ」
「ん。それじゃあ配膳済ませちまうか、桜」
「はいっ」

 そのやり取りで視線から開放される。
 なんだったのかしら一体。まあ気にしても仕方が無いので、いつもの席へ。
 正面のタイガーはお茶を啜りながら朝のニュースなんかを見てる。
 少し身を乗り出し、小声で話しかける。釘を刺しておかなければ。

『タイガー』
『何かな少女』
『判ってるでしょうね』
『焼タマゴ一枚』
『………っ! 自分のほうが上だとでも言うつもり!?』
『いいよー別に。へへーんだ、こちとらお爺様に怒られる年季が違うもんねー。
 その時はその時よ!』
『ひ、開き直った………!?』

 虎の子を使いすぎて覚悟を決める時間を与えてしまったらしい。
 こうなってしまうと私の伏せ札はその効力を失ってしまう。
 なんてこと………タイガー如きに脅される日が来るなんて。

「よし、配膳完了。それじゃあいただこうか」
「はい。いただきます」
「……いただきます」
「いっただきまーす。もーらい!」
「おい藤ねえ、それイリヤのだぞ?」
「いいんだもんねー。これは紳士協定なのだ」

 この上ない屈辱だけど我慢我慢。サクラに知られるよりはマシだろう。

「ったく。イリヤも藤ねえに脅されてるんなら俺に言うんだぞ」
「まさか。タイガー如きに脅されるなんてありえないわ」
「それならいいんだが……それはそうとイリヤ」
「? なあに、シロウ」
「ネコまんま作っておいたから帰りに持って行けよ」
「―――は?」
「藤ねえに聞いたぞー。ジャンクなのはネコの体に悪いんだからな」

 な―――!?

「小動物はあまり塩分強いものは駄目なんですよ。
 後で私も見に行っていいですか?」
「あ、俺もいいかイリヤ」
「あータマゴ焼きおいしいー。シロウのタマゴ焼き絶品よね!」
「た………………」
「た?」「イリヤちゃん?」「タマゴ焼もう一枚貰って良い?」



「タイガー―――――――――!!!」



こねこ日記―――その2。
気付かぬは純真な少女ばかりなり。