この出会いは奇跡ゆえに〜後編〜


「・・・・・・・・」

朝日が差し込む室内。
まるで凄惨な殺人現場のように、床には大量の血液の跡がある。
その中心であるベットの傍らにはランサー。
ベットにはバゼットの姿。
全ての作業を終え、疲れきったランサーの手が
バゼットの血にまみれた髪をかきあげる。
血の気が引いて青白いが・・・

―――生きていた。

馬鹿みたいに。あどけない顔である。
切断された左腕にも目をやる。・・・繋がらないままだった。
その腕に令呪の輝きは既に無く、ただのモノと化していた。

ランサーは霊的医療の専門家ではない。
魔術は技術だ。それは万能ではなく鍛え培ってきたものが物を言う。
・・・己の生き方に後悔したことなぞ無いが、それに目をやるたび。
凛々しいが少女のような主に申し訳ない気持ちになった。

「わりいな、バゼット。
俺なりに精一杯がんばったからよ。許してくれや」
申し訳なさそうに、青白いおでこを優しくなでる。

――まるで友人のようでいて。からかいがいのある弟のようでもあって。
恋人のようでもあった。
バゼット・フラガ・マクレミッツ。


さて。お別れの時間だ。


見やる青白い顔は、ピクリとも動かない。
―――力をためて、闘っている。
それがいつものように
『子供じゃないんだ。心配するな、ランサー』
と言っているかのようで。苦笑してしまう。

「・・・もう生きて会うことはねえと思うけどよ。
達者でな。バゼット」

そう言うとまるで風のように。
その部屋から英雄の姿は消えたのだった。



バゼット編最終話後編。さよなら。
それぞれの戦いがある。成すべき目的がある。
彼らはいつだってその為に傷つき突き進んできた。
だから止まれないのだ。
その誓いとともに。
オレはオレの戦いに、必ず勝利する。
願いは叶わないかもしれない。しかし。
この誓いだけは。なんとしても叶えて見せる。
だから。
オマエはオマエの戦いに打ち勝て。バゼット。

呪いを”停滞”させ傷を”再生”させ失われたモノを”復活”させるという
秘術の全てを出し切る。
手持ちの医療ルーンはほぼ使い切ったその成果は
バゼットの命を繋ぎとめた。
あとは・・・バゼット自身の戦い。
死地を持って何度でも生き残ってきたお前ならば
この戦いに必ず勝てると。そう信じてランサーは己の戦いを開始する。

―――神父を、必ず殺すのだ。