この出会いは奇跡ゆえに〜前編〜


ガララッ

ベランダからマンションに進入したランサーだが
防御用の魔術は働かなかった。
主の魔力が低下しているからか。抗魔力のおかげか。
―――どうでもいい。

ベチャッ。ベチャッ。

バゼットから流れ出た血液がランサーの足を伝い落ちる。
―――ぞっとする。
まだ息があるのが信じられないほどである。
おそらくは。
マクレミッツの家系に受け継がれてきたルーンの魔術刻印と
ゲイボルクから起動した”再生”のルーンの作用の為だ。
血液を。再生し続けているのだ。
まさに―――でたらめ。
ランサーですら再現は出来ないであろうそれは、魔術の限界に迫る
とてつもないシロモノだった。

「タフなわけだ・・・だが。」
そのような魔術行使はバゼットの魔力が尽きた時点で終わる。
それでおしまいだ。故に。
「オレが、助ける」

クー・フーリン。
アイルランド最高の英雄と呼ばれる彼は武勇のみを大きく取り上げられるが
師、スカサハから学んだものは、ゲイボルクと鮭飛びの術だけではなかった。
―――18の原初のルーンの秘術の全て。
彼を英雄たらしめているのは槍だけではないのだ。

ベットに寝かせたバゼットの体からは未だ出血が続いている。
『クソ神父が・・・!ご大層に呪いの傷とはな・・・!
野郎ホントに神父かよ・・・性格捻じ曲がってやがる』
―――だが。初手でバゼットを殺さなかった。・・・何故だかはわからないが。
『・・・どうでもいい。奴は敵だ。それより今は・・・
バゼットを、助ける・・・!』

おそらくはこの戦いで使うことは無いであろう・・・
ランサーのルーンの秘術の全てが。開放された。



バゼット編最終話前編。槍だけにあらず。
ゲイボルクの技術、鮭飛び、その他さまざまな秘術を使う
クー・フーリンではあるが彼は武術だけではなく
ルーンによる魔術もすばらしい腕前であった。
だがそれを持ってしても助けられるかどうかは運しだい。
神父がバゼットに与えたダメージは
常人ならばとっくに死んでいるものだったのだ。