この誓いは、まだ。


駆ける。まるで空を飛ぶかのように。
この背に背負った命を何としても救うために。

「死ぬな死ぬな死ぬな・・・!」

その命のしずくが尽き果てる前に、彼らの城へ帰り
バゼットを癒す。それがランサーの目的である。
―――魔術師のねじろはその回復力をも助ける。
協会が用意したそこは、冬木のレイライン上に存在する
一種のパワースポットだった。
拠点の新たな主となったバゼットは、ルーン魔術の粋を尽くし
そこを要塞と変えた。
キャスターにやられた傷は重症であったにもかかわらず
バゼットは実際にその傷を数日で完治させたのだ。
ゆえに。ランサーはそれにかけていた。

「ん・・・・あ・・・」
ゲイボルクに穿たれた18の原初のルーン。その光に守られた
バゼットが目を覚ました。
「生きてやがるな・・・!よし」
ランサーはスピードを速める。
「私・・・は・・・
・・・ラン・・・サー・・・。ランサー・・・。・・・クー・・フー・リン・・・。
・・・つ・・・くう・・うっ・・・!すまな・・・い」
「泣くな。オマエは死にかけているんだ。
体力を消耗するんじゃねぇ」
「私は・・・!ごめん・・・なさい・・・ごめ・・・うう・・・!」
まるで子供のように泣きじゃくるバゼット。
いつも気丈で減らず口を叩く主は、見る影も無い。
「・・・たわけ。裏切ったのはあいつだろう。オマエは悪くねぇだろうが」
「ちが…う…。私は…
自分の”誓い”ゲッシュも……守れなかった。
あなたと……戦い抜くと……誓ったのに……」
「―――――」
「もう……私は……貴方のマスターでは……ないんだ。
マスターの資格を……失っ…た者は……マスターには…
戻れない……だから…」

それは―――悔し涙だった。
そう、バゼットは夢だと語った。人生の目標だとも。
ランサーと―――居ることが。
だから。バゼットは全てを失ってしまったのだ。
もうその槍と共に、駆ける事は―――無い、と。

「ゲッシュを破ったものは…ソレ相応の対価を払う。
あなたは…左腕を持っていかれたな…。
だから……。私は…
この、命…を……」

「馬鹿野郎がッッッ!」

軽くなってしまったその体が・・・びくりと震える。
―――本気の、怒声だった。

「死に場所を・・・間違えるな!
戦士は戦場で死ね。誇り高く。仲間の為に死ね。
それまであがき続けろ。
令呪?資格?
ハッ。そんなものは知ったことか。
この槍を捧げたのはバゼット、オマエだ。
だから主はオマエ一人だ。
それがお前に捧げたオレの”ゲッシュ”。
海が割れようと。世界が終わろうと。オマエの敵を必ず殺す。
―――まだ、終わっちゃいない。

だから―――オマエの戦いは。
生きることだ。生きて生きて、その命を仲間の為に使え。
そうして戦士として死ねたなら。
”夕日の向こう”ティルナ・ノーグで。ロイグと三人。走ろうや。アルスターの野を・・・よ」

「あ・・・・・」
「っと・・・。もう謝るなよ?また怒るぜ?」
「あ・・・・ありが・・・とう」
・・・・気絶したようだ。
『体力使いやがって・・・。これで死んだらひっぱたいても起こしてやる』
ランサーは彼らの城へと向かう速度を速めた。



バゼット編17話。夜を駆ける。
度重なる聖杯戦争によってずたずたに引き裂かれた冬木の
レイラインだがそのごく一部は来るべき聖杯戦争の為に
活性化をはじめていた。
そこは都市霊力といわれる人の念が集中する一種のパワースポットといわれる場所。
柳洞寺や遠坂邸のような土地自体の
強力な加護を得られる類の場所ではないが
モノに刻むことによって効果を得る
ルーンの結界ならばむしろその場所は強力な要塞を作るに相応しかった。
強力なルーン術師であるバゼットはそこを
一級の拠点へと変えたのだ。
ランサーはそれに賭けた。
主により意味を与えられたならば、その期待に応えてみせよ!