得たモノ。失ったモノ。〜後編〜


言峰は誰よりも強かった。そして正しかった。
揺ぎ無き信仰は、道というものを貫くことがこんなにも美しいものなのかと。
それをバゼットに示してくれた。
―――だから。強く惹かれた。
ある日。彼はバゼットの前から消えた。
遠くへ。手の届かないところへ。

『コトミネ・・・君は・・・』
「・・・それが。私が聖杯を求める理由だ。マクレミッツ」
「・・・・何故、話した。
・・・私は・・・それを認めるわけには―――いかない」
その理は何よりも義と信念に生きるバゼットにとって受け入れがたいものだった。
―――だが。それでも。
「だが・・・。それでも私は・・・。
君の為に・・・なにかをしてやりたいんだ」
誰よりも強く、想った相手だから。
バゼットは目前の男を放っておけない。

―――救って、あげたかったのだ。



「――――。」
神父は真摯な目をして己を見る目前の女に―――既視感を抱いた。
それは、彼が人としてあろうとした頃に見た最後の映像。

主の前で。ただこの身を案じるその姿が―――。
死を目前にした妻の姿に・・・重なる。

神父は一瞬だけ。その鋼鉄の意志を秘めた瞳に――ゆらぎを覘かせると。
それを理解できないとでも言うように。頭を振った。

『―――そうだ。最初から決まっている。
この道を。往くだけだ』



「ならば・・・主に。この思いが貫けるように・・・。
祈ってくれ、”バゼット”。」

立ち止まる神父を追い抜き、バゼットは一人祭壇の前に進み出る。
ほんの一瞬。哀れむような・・・そんな神父の表情を見た気がして
振り向こうとした女は……。

二度の斬撃を受け、地に倒れ伏した。

耳に響く・・・幸福なようで、どこか悲しい響き。
「――ああ。この愉悦は。
君にとって悲しいという感情なのだろうな」



バゼット編15話。その時。
初めて出来た本音を話せる友だった。
その背中は誰よりも頼もしく。
その技は誰よりも恐ろしく。
その意思は何者をも貫いた。
そう。バゼットの心をも。

味方である時も、敵であるときも。
その背中を戦場の中でいつしか捜すようになった。
そうして共に在れたときも頼るばかりで
一度として彼の力になれたことはなかった。
だから、再び出会えたこの地で。
この10年。鍛え上げた技が彼の力になれるのかと。
とてもとても・・・嬉しかったのだ。
だが。
彼にとって必要な力は・・・バゼットのそれではなかった。
ただ、それだけのこと。