得たモノ。失ったモノ。〜前編〜


ギィィィィィ・・・

「コトミネ、来たぞ」
「マクレミッツ。来たか」

広い礼拝堂の真ん中で。神父は待っていた。

「用件は何だ?」
「召還早々派手にやったようだな」
「・・・やれやれ。耳が早いことだ。
お叱りというわけかな?監督殿」
「いや・・・今日は電話で話したとおり。
君に相談したいことがある。それが用件だ。
先日の話だ。覚えているかね?」
「・・・聖杯に求めるものの話・・・だったな」
「ああ。」

神父は祭壇へと歩き出す。
バゼットもそれに続く。
コツコツ。たくさんの椅子の間を、足音がすり抜けていく。


「あの頃。そう。私と君がこの道に身を置き・・・
それぞれの立場の下に。異端を狩っていた頃の話だ」
「・・・ああ。私たちは属する場所は違えども・・・やっていることは同じだった。
魔術師狩りである私は異端を捕縛し、その未来を断つ。
代行者である貴様は異端に手を染める彼らを断罪する。
貴様らの教義ではそれは悪魔とされるが・・・
その技を。異端とされた”人間”相手に振るうことも多かった。
そんな時だったな。我々が出会ったのは」

それぞれに消去すべき目標を共にする二人は
時には協力し合い、時には敵対する。そんな間柄だった。

「隣人を愛せよ、と主は仰った。
ゆえに”不徳”を良しとする代行者はその存在自体が矛盾だ。
私の中で・・・”あの時”まで。神の教えに揺らぎはなかった。
ゆえに。代行者として働いていたあの頃。
否。それ以前・・・そう。私が生まれた時から。
つねに疑問があった。
何故私はこんなにも。
―――破滅に対して愉悦を覚えるのか」
「――――!?」
「マクレミッツ。私はな。君達の言う・・・幸福がわからない。
強く神を信じ。その教えに従うことこそが幸福へと至る道だと。
そう信じてこの道を貫いてきたつもりだった。
だがな。私が感じる幸福は・・・愛の中にはなく。
破滅の中にあった」
「コトミネ・・・・」

バゼットが言峰に並ぶ。

「私は自分が壊れているのだと思った。だが―――。
妻の死を見てなお、その破滅を・・・
愉しむと考える己を以って。
私の世界はただこれだけなのだと・・・悟った。
故に。
壊れた私のようなモノが・・・この世界にあること。
生きて為す事が罪なのか。それを・・・。

確かめたくなった。」



バゼット編14話。追憶の中で。
神父は語る。これから■そうとするモノの前で。
近づき離れ、共に歩いていたあの頃。
誰からも求められその力を存分に振るっていた男は己自身を
誰よりも理解できなかった。
片や異端狩りとして魔術師達に恐れられ
居場所をなくした若い魔術師は戦場の中でしか
己の居場所を知らず孤独に怯えていた。
二人が出会ったのは・・・そんな時だった。